人と人との出合いは、見えない縁の働きでつながることの不思議さです。二年前に小さな冊子を作成しましたが、多くの方々の協力を頂いたお陰です。その経緯を辿って人生の物語りを綴りたいと思います。
その冊子は「日本を救ったブッダの言葉」(サンガ、2020年9月1日)と題した鎌倉大仏殿高徳院にある「ジャヤワルダナ前スリランカ大統領顕彰碑」の紹介です。戦後、日本の戦争責任を討議した時のサンフランシスコ講和会議でのジャヤワルダナ元大統領の演説です。
会議に提出されている平和条約草案に対して、ソ連が日本を分割して自由を制限する修正案が出されているのです。ジャヤワルダナ元大統領の演説の一部を引用します。
・ソ連は日本の自由は制限されるべきだと申し入れているが、今述べた理由で、私はソ連代表の意見に記名し承認することはできない。ソ連が日本に課した制約とは、日本が自由な国家として許される自国を守る兵力を維持する権利の制限や、その他ソ連が申し入れる制約は,ここに出席されている大多数の代表団ばかりでなく、出席していない他の国々にも、この条約の承認を難しくしている。特にこの条約が意図していることよりも、更にそれ以上をのぞむインドは絶対に反対するはずである。…… 従ってソ連の提出した修正条項に我々が同意することができない理由は、この条約は日本に宗主権と平等と尊厳をとり戻させることでああり、制約をつければ不可能となるからです。この条約の目的は、日本を自由な国にし、また日本の復活に何らの制約もつけず、日本自身で外からの攻撃や又国内での騒騒擾に対して軍治防衛を組織するようにさせ、その時期がくるまで日本が自国を守るため、友好強国から援助を求めやすくし、経済に悪影響を与えるような賠償金を日本から取り立てないようにしる為のものであります。…… この条約は敗北した者に対しうるものとしては寛容な内容でありますが、我々は日本に対して友情の手を差し伸べましょう。
このような慈愛のある演説を、戦争当事国で無条件降伏した国に言えるでしょうか。被害を受けた多くの国は憎しみこそあれ、このような寛大な対応はなかなかできません。多大の損害賠償請求をされて、ドイツのように分割される国もあるのです。当然、戦勝国は賠償を求める権利を有しているのですが、その権利を行使しするつもりはないと言い切っています。
その背景には、ブッダの“憎しみは憎しみによっては止まず、ただ愛によってのみ止む”との言葉を信ずるからですと述べています。
ジャヤワルダナ元大統領は敬虔な仏教徒で、サンフランシスコ講和会議に出席する前に日本に立ち寄り、国の指導者や国務大臣、一般の人たち、寺院の僧侶などに会って、ブッダの教えに従いたいという希望に満ちている印象を感じたのですと述べています。仏教の教えが浸透している日本人には自由で独立した国作りが出来るようにとの信念を持たれたのでしょう。
感動が行動を起こしさらなる縁につながる
縁あってこの演説の全文を読んで、是非ともこの事実は、多くの日本人に知ってもらいたいとの強い思いが湧き上がり、行動に移しました。
作成を始めると次々と必要な方々とつながり、コロナ過で少し活動できない時期もありましたが2020年9月には完成しました。この冊子を作ることになる直接の切っ掛けは、元武蔵工業大学の高田達雄先生です。高田先生が私との縁につながった経緯を書かれた文章を頂きましたが高田先生との出合から始めると長くなりますので、スリランカとの縁ができる時からの経緯を要約して示します。
高田先生は1997年4月に新学部「環境情報学部」を立ち上げの主要メンバーであり、その後学部長を歴任しています。開学記念に国際会議「持続可能なアジア」を開催し、留学生の発表の機会を作り、その発表者の一人にスリランカのキツリ留学生がいました。
その後、帰国しましたが、2019年7月に在日スリランカ大使館員として赴任してきたことで、スリランカとの縁ができて、スリランカ大使館を訪問しています。
当時、スリランカのコロンボ造船所で日本のKDDI社から注文を受け「光海底ケーブルの敷設船」を建造したという話を知ったとのこと。この光海底ケーブルの話を話題として友人の新納康彦氏(元社長)とスリランカ大使館を訪問し、ダンミカ大使と懇談をしています。その際に、大使から「錫蘭島・スリランカThe Bridge of Culture,Vol.01、 セレンディピティに出会う」(創英社/三省堂書店、2019)を頂戴していました。
後日、キツリ氏との昼食会をする時に私も招かれ、そこで上記のスリランカの本を持参され見せて貰いました。スリランカの美しい自然や風習が写真を多用して紹介されていましたので借用して読みますと、最初のページにジャヤワルダナ元大統領のサンフランシスコ講和会議での演説の全文の記事がありました。演説の全文を読んだ時に、世の中には、このような素晴らしい人がいるのかと感動して胸に迫るものがありました。この時の感動が冊子作りのスタートです。最初に高田先生との縁により始まり、演説の内容を知るまでにかなりの偶然がつながり読むことができたのです。その後の冊子作業中にも多くに方々とのつながりがあり完成したものです。
冊子の内容は、私のホームページ{人生悠然}のNo20-3(2020.2.29発行)で演説の全文ならびに中村元先生の言葉と作成の経緯を読むことができます。更に、No20-10(2020.10.3発行)に{ブッダの言葉は「慈悲のこころ」}と題して、ジャヤワルダナ元大統領の仏教徒としての言葉を、顕彰碑除幕式で再度日本を訪問された時の講演録から探りましたので参照してください。
さらなる縁により動画付の冊子完成
これまでの冊子はすべて文章ですが、素晴らし縁に恵まれてジャヤワルダナ元大統領の演説時の肉声を聴くことができるようになりました。
冊子作成当時に協力して頂いた関谷巌氏(弁護士)が、苦労されて顕彰碑のYou Tube動画を作成されて、冊子の裏表紙にQRコードが付加されました。11月に第三刷りができましたので紹介します。
写真のQRコードを読み込んでみると、顕彰碑の建立経緯や関係者の話、更に素晴らしいことにジャヤワルダナ元大統領の肉声を聴くことができます。冊子の全文は鎌倉大仏殿高徳院のホームページを開くとPDFで載せていますので簡単に読むことができます。
PDFでサンフランシスコ講和会議での演説録を読んで、動画で肉声を聴いて、感動した方がおられたら遠慮なく後藤までご連絡ください。可能な限りですが、希望の枚数を差し上げます。
最近の国際社会の混乱は、すべて一握りの指導者の傲慢と領土拡張の執着によるものです。ジャヤワルダナ元大統領のような指導者が出てくれることを願っています。この冊子はささやかなものですが、一人一人の心に慈悲心が芽生えれば幸いです。
今いる「私」という個人がしている行動や思考は、すべて過去のその時その時の出合いの中で得られた経験の蓄積であると実感しています。