生きるとは何か - No.25-1

過去の蓄積が今を創る

2025.1.1発行

社会は常に変化している

生きているのは、今、この現在の瞬間です。しかし、過去からの経験の蓄積が現在の私たちの身心に大きな影響を与えると思います。何時、何処で生れたか、両親の出身地は、などと先祖まで辿ると人々の由来は大きく異なります。日本での生れなら、戦前か、戦後か、田舎か、都会か、生活環境は、従事した仕事は、などと辿って行くと、過去から引き継がれた経験は、その人の人格形成に影響し、現在の私やあなたの変化を裏付けています。

日本人は、戦後の混乱から立ち上がり、その後の高度経済成長で生活レベルは向上し、多くの人が裕福な中産階級となりました。しかし、バブルは崩壊して一転、低成長時代に入り現在に到っています。

戦後80年は戦争に巻き込まれること無く、平和な時代が続いています。アフリカや東南アジアの国々では、学びたくも学べない多くの子供達がいます。日本は彼らから見ると、非常に恵まれているにもかかわらず、イジメが多発し、多くの不登校や自殺するなどの生徒がいて社会問題になっています。そのような状況を見ると、幸せを感じるのは経済的な尺度だけでなく、お互いが助け合って生きている生活環境が保たれることが必要と思われます。しかし、最近は個人情報保護と言って、隣近所に、誰が住んでいるかも分からない状況です。個人が孤立して、協力し助け合う風土は極端に悪化しています。地方は過疎化し、都市部に人口が集中し、高層マンション建設が進み、生活空間が密になり、かえって、互い不干渉となり、疎外感が増しています。昨年の日本のGDPは韓国にも抜かれ22位で、先進7カ国でも最下位との報道がありました。社会構造が変わり、政治・経済の低迷と、人々の心のあり方も知らずに変化してしまっているようです。

「今、ここ」に気づくこと

人も国もあらゆる物が絶え間なく変化するのは自然なあり方で、宇宙の真理です。例外はありません。生命あるもの、特に人間にとって、生老病死を諦めることは一大事のことです。人は皆、何時までも若さを保ちたい、健康でいたい、裕福になりたい、死にたくない、などと願っても日々に状況は変化し、何時しか歳を重ねて老いていきます。

生きることの本質を問い続けた古代ローマ帝国の偉人がいました。最近、書店で立ち読みをしていて、たまたま目にした本があります。内容が素晴らしく、その生き方に対し感動を覚えました。私は自分の生き方については、仏教からの学びをしていますが、彼は西洋哲学のストアー派の思想をベースに深い思考がなされています。因みに、ストア-派の哲学とは何かをインターネットで調べてみました。ストア派の思想は、思考や感情を適切にコントロールする術を提供し、私たちが日常で抱える不安やストレスへの対処、そして精神的な健康維持に役立つ可能性を秘めているとの説明がなされています。

ローマ帝国の第16代皇帝のマルクス・アウレーリウス(131-180)が自分自身と対話したメモとして書き残したものが、日本語では「自省録」といい、英語圏では「メジテーション」すなわち「瞑想」として広く読まれているとのことです。購入した本は2冊あり、一つは神谷美恵子訳「マルクス・アウレーリウス 自省録」(岩波文庫、1956年初版、2024年第30版)で長らく読み継がれています。もう一冊は佐藤けんいち編訳「超訳 自省録 エッセンシャル版」(Discover、2021年第一刷、2023年第12刷)で、最近編纂された本で、工夫が凝らされていて内容が掴みやすくなっています。

神谷氏の自省録は、翻訳全文が12巻に分けて記されていて、それぞれの時に自省した内容が記録されているので整理されたものではありません。佐藤氏の編訳は、訴えたい内容の同じものをまとめて副題を付けて9章に分けて整理し、分かりやすく理解が進みます。

この本で、最初に目に止まったのは1章の「いま」を生きよ です。そこには18の箴言があり、ここでは4件の箴言を紹介します。

箴言1:時は過ぎ去り二度と戻ってこない

思い起こしてみよう。君はいったい、どれだけまえからずるずると引き延ばしてきたのか? なんども機会をあたえてもらいながら、それを有効に使ってこなかったのではないか?
もうそろそろ自覚するべきではないだろうか。君がその一部である宇宙とはどんなものであり、君を生み出したパワーがどんなものであるかについて。
そして、きみたちに与えられた時間  は制限つきだ。この限られた時をつかって、心の雲を払いのけ、光を取り戻さなかったなら、時は過ぎ去り二度と戻ってこないだろう。(2-4)

アウレリュースは一日の終りに静かに瞑想して、自分(君)に問いかけて、今日の一日を振り返って自省しています。与えられた時間はかぎられているのだ、過ぎ去った時は二度と戻ってこないと自分に問いかけています。読む我々に呼びかけていると受け取ると、私たちの反省となり、勇気つけられます。( )内の数字は神谷本の二巻の4を意味します。神谷本の全文を読むことができ視点が少し増えます。

箴言4:いま、この現在という瞬間だけが重要だ

誰もがみな、いま、この現在という瞬間だけを生きている。このことだけを堅く守り、それ以外のことはすべて忘れてしまうのだ。この瞬間以外の人生は、
すでに過ぎ去った過去のものか、あるいはいまだ不確かな未来のものだ。
誰にとっても一生は短く、生きている世界のこの片隅も小さい。死後に続く偉大な名声もまた、自分のことすらよく知らずに死んでゆくあわれな人間たちが、
つぎからつぎと伝えてゆくも
のに過ぎないのだ。(3-10) 

いまのこの瞬間にしか生きていないのだ、ということを心に刻みつけるように自身に問いかけている姿は、修行を積んだ仏教僧を連想します。後半の言葉を、今の自分に思いを巡らして、
考えてみると、一生は短いのだ。広い世界から見れば、狭い地域に生活しているにすぎない。たとえ名声を得ていたとしても、わずかな知り合いが語り継いでくれるだけだ。執着すること
などない、生きているいまの瞬間だけだ、確りと生きろと、背中を押してくれている感じがします。

箴言13:変化しないものは役に立たない

誰が変化を恐れるというのだろうか? 変化することなく、いったいなにが起こるというのだろうか?
燃料のたきぎが変化しなければ、風呂に入ることもできないではないか。食べ物が変化しなければ、栄養にならないではないか。どんなものごとであっても、
変化しなければ役に立つこと
はない。では、君自身にとっても変化が必要なことが見て取れないのか?
宇宙の自然にとっても変化が必要であるのに。(7-18)

仏教では諸行は無常であり、これは真理であると説いています。無常を確りと体得することがものごとを理解することの基本になります。アレニュースも自身に言い聞かせるように自省している姿が目に浮かびます。変化することがいかに大事かなことか、お前自身も変化が必要なのだ、よく見て自覚しなければいけないのだ。この宇宙の自然にとっても、変化が必要であるのがわからないのか、よく観察することだと、自身に問うています。

箴言17:宇宙ではすべてがつながっている

宇宙に存在するものはすべてつながっており、お互いに関連し合っている。このことについて、しばしば考えてみるとよい。ある意味ではすべてのものが網みあわされており
お互いに友好関係にあるからだ。
宇宙には、膨張と収縮というあい反する運動のあいだに緊張関係があり、さまざまな共振現象もある。すべての実体が一体化しているため、
つぎからつぎへと順番にものごとが生ずるのである。
 (6-38)

これは仏教の教えそのものといえる。華厳経では、一切の現象は相対的に関係し合うと説いていて「一即一切」という言葉があります。宇宙の真理を体感していることは素晴らしいことで
す。当時、ローマ帝国の広大な地域を治めている皇帝としては、お互いの友好関係を保つことは重要な任務です。あることが起これば、関連し合っているから、つぎつぎとものごとが派生す
ることを、冷静な目で観測をしているように思われます。

アウレリウスの頃はまだキリスト教は入っていないので、神の縛りを受けていないためか、ブッダの教えを聞いているようにも感じました。神谷本に訳者序があり、そこで自省録について
記しているので、一部を転記します。

プラトンは哲学者の手に政治を委ねることをもって理想としたが、この理想が歴史上ただ一回実現した例がある。それがマルクス・アウレーリウスの場合であった。大ローマ帝国の皇帝という地位にあって多端な公務を忠実に果たしながら彼の心はつねに内に向かって沈潜し、哲学的思索を生命としていきた。・・・折にふれこころにうかぶ感慨や思想や自省自戒の言葉などを断片的にギリシャア語で書きとめる習慣があった。それがこの「自省録」として伝わっている手記である

今回、自省録に出会ったのは幸いでした。多分、多くの方がたは、既に読み継がれていると思います。私も仏教を通してこれらの内容はある程度の理解はしていましたが、
本を手に取って内容の深いことに感動しました。
60歳の手習いとして、趣味で絵画や書道を学んで楽しんでいます。勉強として、書道教室や絵画グループに参加して、一からの学習でしたが、日頃の学習成果は書道展や絵画展に公募することで
刺激を得ていました。
書道は行書や草書で連綿で書いて、書道展などに応募していましたが、会場は関係者だけです。最近は、一般の方が読める内容を書くことをしたいと思い、自己流で書いています。
また、絵は、以前に描いた作品に、調和できる言葉を墨で書き入れることで、分かりやすい作品にならないかと思っています。残された人生です、世間の常識や評価にとらわれない自分探しの趣味にし
て、気楽に楽しんでいます。

過去は変わらない、未来はまだこない。「今ここ」の思考や行動は過去をベースにしている。
しかし、この現在の瞬間は、思考や行動の自由がある。変化する今、何をなすかが重要である。

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